「本当にそう思っているの?」と疑われない志望動機を書くには?(後編)

前回、志望動機において「本当にそう思っているの?」と疑われないために「こういう体験をしたから こう思う」を書くべきだ、と述べた。
つまり、志望動機には次の2つのポイントがある、ということ。

  1. 自分の体験との接点を記述する
  2. 思い入れを自分なりに言語化する


今回は、前回の続きとして「2.思い入れを自分なりに言語化する」について考えてみます。


思い入れを自分なりに言語化するべきだと言うのは、そうしなければ志望動機がありふれてしまうと思うから。
仕事/職種/企業への思い入れは、そのままでは陳腐な言葉に置き換えられてしまっているだろう。
そして、思い入れを陳腐に表現した志望動機では受験生 数百人オーダでありふれてしまう。埋もれてしまう。
だから、仕事/職種/企業への思い入れを「自分が思うように」言語化することに努めるべきだ。
「グローバルな人材になりたい」や「大学時代の専門性を活かしたい」などは、もっと自分が思うように言語化できると思う。


では、どのようにして言語化するのか?


それについて一概に答えることは難しい。
でも、参考になるだろうナイスなテキストを『おとなの小論文教室。Lesson261 好きを掘りさげる力――伝わると伝わらないの境界(4)』に発見したので引用しよう。
長いけど、とにかく一読してほしい。

Iさんの「好き」は、小学校6年のときに訪れた。


小学校6年のとき、
お父さんが持ち帰る週刊誌を、
かくれ読み、こんな面白い世界があったのか!
と思ったそうだ。


Iさんは、このとき感じた「好き」に最後まで忠実に、
就職戦線を勝ち抜き、みごと夢をかなえた。


Iさんの志望理由を単純化するとこうなる。


「小6のとき
 父親の週刊誌を読んで面白いと思った。(事実)
 ↓
 だから私は週刊誌の編集者になりたい。(意見)」


このままでは、他人からも、自分からも
つっこみ可能な、まだまだ弱い志望理由である。


実際、女性のヌードから、スキャンダルまでを含む
男性週刊誌を下世話だと一蹴する人もいるし、
Iさん自身、新聞記者の方がいいんじゃないかと
ゆれた時期もあったそうだ。


しかし、Iさんが、
本来感じた「好き」をあけわたさなかったのは、
自分の感じた「好きを掘り下げる力」=「考える力」
があったからだ。


Iさんの文章には、
「事実」から「意見」までの間に、
幾重にも、粘り強い「考察」が挟まれている。
それが「説得力」になっている。


「小6のとき
 父親の週刊誌を読んで面白いと思った。(事実)」
 ↓
 だから私は週刊誌の編集者になりたい。(意見)」


と、いっそくとびではなくて、
まず、「なぜ、週刊誌か?」を掘り下げる。


新聞でなく、書籍でなく、スポーツ紙でなく、
小6のとき、自分が感じた週刊誌の面白さは
何だったのか?
それをIさんは、こう言葉にしている。


「人間の上半身の部分を生真面目に追うことよりも、
 ホンネの部分を好奇の一心で謎解く週刊誌。
 社会・政治・文化・風俗を
 事実の<ウラ>から分析していく仕事が
 あるのだと感激した。」(考察1)


さらに、「それは自分のどういう性質から来るか?」
Iさんは、こう掘り下げる。


「私は、人と話すのが好きだ。
 特に、表では権威ある人が、
 ふと人間らしい表情を見せる瞬間がなんとも好きだ。
 私は、社会の様々な側面に上半身から下半身まで
 興味を持つ性分である。」(考察2)


Iさんは、学生時代、
毎晩のように酒場に足をはこび、
異世代の友人が60人以上できたという。
酒場で出会い、
自分のアパートで朝まで語り合った相手が
自分の学部の教授だったことに
あとで気づいて、
びっくりしたこともあったそうだ。


そうした自分の行動、体験から、
自分の好きなことをよく分析している。


そこでIさんは、
「週刊誌の編集者になって何をやりたいのか?」
と考える。


「社会・政治・文化・風俗を全方位から追求して
 レポートしていきたい。
 人の上半身と下半身、
 昼の顔と夜の顔、タテマエとホンネ
 割り切れない二つの蝶番を地道に追い求め、
 一般的に、権威、事実とされていることを疑い、
 人間や組織の虚実を明らかにしていきたい。
 自分のスタンスで本質を追い、
 現実を自由に動き回りたい」(考察3)


このようにして掘り下げられ、
言葉にされてみると、
Iさんが、週刊誌編集を選んだことが
とても納得できる。
だけでなく、それは、読む人に
週刊誌の価値まで再発見させる力があった。


ここで言いたいのは、「その仕事に携わることが自分にとって どのような意味を持つか?」を自問自答することで、好きを掘り下げる すなわち思い入れを言語化できるのではないか、ということ。
「その企業で働くことが自分にとって どのような意味を持つか?」を自問自答することで、思い入れを言語化できるのではないか、ということ。
「Ⅰさんの志望理由」でも、「なぜ、週刊誌か?」をはじめとする一連の問いが週刊誌編集という仕事のⅠさんにとっての意味をよく言語化している。


志望動機のゴールは、もっともな内容をロジカルに記述することじゃない。
あなたが志望するように、読み手に感じてもらうことだ。
そのために、「こういう体験をしたから こう思う」を言語化するべきだと思う。